絵本『法然上人ものがたり』その3 なぜ醍醐本なのか

 法然上人の伝記絵本を作成しようと考えたときに、まず検討したのは、「何を参考にしていけばいいのか」ということです。

 もっとも知られているのが、国宝でもある「勅修御伝」です。壮大な絵巻物で、現代ではこれを元に法然上人伝記が語られることが多いようです。これも大切な伝記には違いありませんが、法然上人が亡くなってから年月が経過しての制作になっています。

 一方「醍醐本」は、法然上人の弟子などが関わったとされる初期の伝記なので、より法然上人に近づけるかもしれないと考えて、これを典拠にすることにしました。内容を見てみると、自然体とした表現の中にも、生き生きとした言葉が印象的です。また、この絵本では思想面にまで深く言及をしていませんが、法然上人の思想が伝わっているのではないかと考える箇所もあります。

 また、法然上人の父親の死亡時期については、「醍醐本」と「勅修御伝」では、まったく異なる記述になっています。これについては諸説ありますが、「醍醐本」を元にしましたので、自然な流れになっていると考えております。

 歴史は、研究によって変化していくものです。この視点を維持しながら、法然上人伝記の考察を進めていきたいと思います。